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「小さく建てて、豊かに暮らす」という選択
「家を建てるなら、30坪くらいは必要」。
住宅のご相談を受けていると、この言葉をよく耳にします。30坪という数字に明確な根拠がなくても、それより小さいと
- 狭い家になる
- 収納が足りない
- 家族が窮屈になる
と不安に感じる方は少なくありません。
しかし、資材価格や人件費が上がり続ける現在、これまでと同じ感覚で家の広さを求めると、建築予算は大きく膨らみます。
限られた予算の中で30坪という数字を守ろうとした結果、断熱性能や耐震性能、住宅設備、外構など、本来大切にしたかった部分を削らなければならないこともあります。
今こそ、「本当に30坪必要なのか」を考え直してみる時期なのかもしれません。
下の写真は、新潟の建築家「鈴木」さんのお家件アトリエです。右の建物がアトリエ、左の建物がご自宅。
ご自宅は、なんと
3間×3間(9坪)×2階建ー吹抜け=16坪
しかありません。
そこに、4人で暮らしています。

宇都宮のマンションは約21坪
ここで、身近なデータをひとつご紹介します。
宇都宮市の分譲マンションは、専有面積70~80㎡が中心。坪数に直すと21~25坪です。宇都宮駅東口の新築マンションも、3LDK・4LDKでほぼこのサイズ。そして、そこでは家族4人が普通に、快適に暮らしています。
つまり、戸建ての25坪は、マンションでいえば最上級クラスと同じ広さ。しかも戸建てなら、すべての部屋に窓があり、上下階に気を遣う必要もなく、庭も駐車場も付いてきます。「25坪の戸建て=狭い」というイメージが、少し変わってきませんか?
家族が約21坪の室内で日常生活を送っていることを考えると、「一戸建てなら30坪以上必要」という常識も、一度疑ってみる価値があります。
問題は、家の面積ではありません。その面積を、実際の暮らしにどれだけ活かせているかです。
広い家にも使われない場所がある
30坪の家を建てても、すべての場所を毎日使うとは限りません。
長い廊下、ほとんど泊まりに来ない来客のための和室や洋室、大きすぎる玄関ホール、家具を置いただけで使われなくなった和室など、気づかないうちに「通るだけ」「眺めるだけ」の空間が生まれることがあります。
一方で、面積が小さくても、家族がよく使う場所に広さを配分した家は、窮屈に感じにくいものです。
廊下を短くしてLDKを広くする。個室を必要以上に大きくせず、家族が集まる場所や家事スペースを充実させる。こうした設計は、単なるコストダウンのための減坪ではありません。
暮らしに合わせて、面積の使い方を組み直すということです。
大切なのは、床面積を減らすことではなく、役割のない空間を減らすことなのです。

一つの空間に複数の役割を持たせる
コンパクトな家を豊かにするポイントは、一つの場所を一つの用途だけに限定しないことです。
例えば、窓辺につくる小さなヌックは、読書スペース、子どもの遊び場、在宅勤務の場所として使えます。
小上がりは、腰掛ける場所、昼寝スペース、来客時の寝床、床下収納など、いくつもの役割を持たせることができます。
子ども部屋も、最初から二部屋に分けるのではなく、幼いうちは広い一室として使い、成長に合わせて間仕切りできるようにしておけば、長期間にわたって無駄なく活用できます。
こうした「空間に対して、どれだけの効果を得られるか」という考え方を、スペースパフォーマンス、略して「スペパ」と呼びます。
これからの家づくりでは、「何坪あるか」よりも、「一坪がいくつの役割を果たしているか」が重要になります。
収納は広さより場所が大切
家を小さくすると聞いて、多くの方が心配するのが収納です。
しかし、収納は大きければ片付くとは限りません。
玄関で使う物は玄関に、衣類は洗濯して干す場所の近くに、掃除用品は使う場所の近くに置く。必要な物を、使う場所の近くに、必要な量だけ収納できれば、大きな納戸がなくても暮らしは整います。
反対に、大きな収納を一か所だけ設けると、物を運ぶ距離が長くなり、奥に入れた物が見えなくなります。その結果、使わない物をため込みやすくなることもあります。
収納計画も、面積の大きさではなく、毎日の動線から考えることが大切です。

小さくしても、削ってはいけないもの
注意したいのは、建築費を抑えるために、何でも小さく、安くすればよいわけではないということです。
特に、断熱性能、気密性能、耐震性能、防水、換気といった建物の基本性能は、完成後に簡単に変更できません。
家の面積を抑えて生まれた予算は、こうした見えにくい部分や、毎日使う設備、居心地を左右する窓や照明に振り分けるべきです。
大きいけれど基本性能を抑えた家よりも、必要十分な広さで、夏も冬も快適に過ごせる家。その方が、長く暮らしたときの満足度は高くなるのではないでしょうか。
小さな家に付いてくる「一生もののおまけ」
さらに、小さな家には建てた後もずっと続く"おまけ"が付いてきます。
まず、冷暖房が効きやすく、電気代が安い。高断熱・高気密との組み合わせなら、エアコン1台で家じゅう快適も夢ではありません。掃除もラクです。
そして意外と見落とされがちなのが、メンテナンス費用。外壁や屋根の面積が減れば、将来の塗り替えや張り替えの費用もその分安くなります。固定資産税も下がります。家は「建てるまで」より「建てた後」のほうが、ずっと長いのです。
「何坪欲しいか」より「どう暮らしたいか」
家づくりを始めるとき、最初に「30坪」「4LDK」と数字を決めるのではなく、まず家族の一日を思い浮かべてみてください。
朝はどこで身支度をするのか。洗濯物はどこで干し、どこにしまうのか。休日は家族が同じ場所で過ごすのか、それぞれ別のことをするのか。来客は年間に何回あるのか。子どもが独立した後、その部屋をどう使うのか。
暮らし方を整理すると、本当に必要な広さと、なくても困らない空間が見えてきます。
30坪は、幸せに暮らすための条件ではありません。
家を小さくすることは、暮らしを諦めることではなく、自分たちに本当に必要なものを選び直すことです。
大きさを競うのではなく、空間を使い切る。余分な面積を減らし、その分を性能、居心地、将来の安心に使う。
「小さく建てて、豊かに暮らす」という考え方は、建築価格が上がる時代の妥協ではありません。これからの家づくりにふさわしい、賢く前向きな選択なのです。

